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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
* * * * * * *
「星音ちゃんは店の雰囲気に合っていると思ってた。何となくきら音ちゃんを思い出すなとか、身につけているものが似ているなとか、気になっていたし……」
ともすれば長年の交友関係にある相手に対する調子でつばきさんが振り返るのは、つい最近の来し方だ。
私は動画のアカウントを他人に教えない姿勢を貫いてきた一方で、隠す努力もしていない。やましい活動ではないのだし、知られたなら知られたので構わないとしていたからだ。
若草色のカーテンの隙間から、金色を混ぜた朱色の光がこぼれていた。井戸端会議の談笑や児童らのざわめきが、時折、微かに聞こえる。
土曜日の昼間、私達は駅で待ち合わせをした。ランチと映画といったデートコースを締めくくったのは、茶葉の専門店だった。つばきさんがその行きつけの店で私の興味を引いたフレーバーを購入すると、二人、慣れた家路に着いた。
相変わらずスタイリッシュで小ざっぱりしたつばきさんの私室に寛ぐ私の目路は、いつになく華やいでいた。
モノトーンやグリーン、ネイビーなどの色味の占める空間に、それは花束よろしく存在感を主張している。
「確かに私、つばきさんのお店になら住みたいかも」
私は目前のマカロンタワーを夢中になって見入っていた。
奇跡のように甘く綺麗だ。
あまねく角度から見ても一点の瑕疵もないディテール、ホワイトからピンク、ピンクから薄めたクリムゾンのコントラストは、一定の層の女の子達の好む傾向の洋服を彷彿とする。
甘いというのは、舌から得た感想ではない。座った私の鼻先の高さほどあるマカロンタワーは、臭覚にも高貴な魅惑を染ませていた。
眺めるだけではいけない。私はマカロンタワーをカメラアプリにも収めていた。
データフォルダをスライドさせなければ見返せし尽くせないまでの枚数、彼女の傑作を画面に残す。どの角度も鮮やかに、色彩まで損なわないで、限りなく実物に近づけて。写真という残滓を開けば、いつでも、匂いまで思い起こせるように。