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愛してるから罪と呼ばない
第3章 真夏の花達
猥褻な音声の犯人は、ノックするとすぐに出てきた。
迷惑客の顔を確かめるなり、ゆうりは自分の目を疑った。
隣室に宿泊していたのは、さっきLINEを返しそびれたばかりの相手だったのだ。
しかも、その相手、つまり沙織は、こののどかは観光地にはあまりにも似つかわしくない格好をしていた。
形の良い二重の目許に、通った鼻梁、無駄な肉づきのないふっくらした頬に、濡れた赤みを帯びた唇という、血色の良い立体感のある顔かたちは、普段の彼女と変わらない。腰までの長さのアッシュブラウンのソバージュの髪も、顕在だ。
ただ、彼女ははち切れんばかりの豊満な胸を余計に強調させる黒いテディに黒いネットのサイハイソックス、ともすればサディスティックな遊戯を好む女王を聯想するコスチュームを着用していた。ガーターベルトの装飾だけは金色で、鋲の並んだチョーカーも、合皮で出来たリストバンドも、やはりその真珠肌とは相反する色でまとめてあり、肉体美を引き立てている。
「何やってるんですか?」
「旅行よ。ゆうりも同じホテルだったのね。部屋まで訪ねてきてくれるなんて、さっき浴場にいた時、見つかっていたのかしら?」
「いえ、知りませんでした。……社長?DVDでも観てました?……しかもAV。ひなびが怖がってるので、音量を抑えていただけると助かります」
ゆうりは沙織の伸びてきた片手をやおら握って、下ろさせる。
あえかなアルトの声が、愉快な音色を立てて笑った。