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愛してるから罪と呼ばない
第3章 真夏の花達


「怖がってるのは、ゆうりだったりして」

「他人のSMに、怖がる理由がありません」

「違うわ。ひなさんと二人きりの密室で、女王様の鞭の音や、Mネコちゃんの声が聴こえてきちゃって、興奮したでしょ」

「…──っ、音量は下げて下さい」

「否定しないのね」


 ゆうりは沙織から目を逸らせる。

 努めて顔色を変えまいとすればするほど、普段、自分がどんな表情をしているか、思い出せなくなっていく。

 ひなびと過ごしてきた今の顔を、沙織に見られたくない。


「ねぇ、ゆうり。私、女王様に目覚めそう。貴女との夜が愛おしくなくなったわけではないけれど。夜の営みに役割なんて関係ないものね。やはり自由に楽しまなくっちゃ」

「それで、そんな格好してるんですか。とにかくひなびがいるので、DVDの音量は何とかして下さい」

「そうね。キスしてくれたら。私を貴女のネコに戻して」

「…………」


 ゆうりは、沙織の左肩にかかった波打つ髪を耳の後ろによけて、細いおとがいに指先を添える。

 沙織の薄く開いた唇に、自分のそれを近づけていく。

 吐息が交わり、異なる二つの体温が、あと少しで重なろうとした時のことだ。
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