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愛してるから罪と呼ばない
第3章 真夏の花達
「例えば」
ゆうりは白い砂を指と指との間に流して、淡いピンク色を帯びた小貝をつまみ上げる。
「愛して愛してくれていた人がいて、その人とは別の人を結婚のパートナーに選んじゃったとして。それが苦しくて、別の子と付き合って、でも、更に別の女の人とも関係を持ったりして。そういうの、どうしたら収集つく、かな」
「──……。昨日のDVDの話?宮小路社長って、そういうの好きなんだ」
「うん、好き、なんじゃないかな」
「…………」
「可哀想」
ややあって、ひなびの聞き心地の好いソプラノが、潮風に甘くとけ入った。
「男の人が可哀想。結婚は、女の人と男の人のカップルの特権だもん。お互いに好きな気持ちを、法や書類が守ってくれる。きっと、男の人は、それだけ奥さんが好きなのに。だからお嫁さんに選んだのに。私なら、お母さんやお姉ちゃんがそういうことしていたら、相手の女の人のこと、恨む」
「──……」
真綿で打った刃物に胸を貫かれた感じがした。
ひなびは、優しかったのだ。固定概念に何の疑いも持たなくて良かったほど、優しく正しい。示されたものをそのまま素直に受け入れて、誰かが傷つくことを何より怖がる。
純粋なものは残酷だ。この親友のように穢れないものは、こうして、あの高貴な女のように正しいだけではどうしようもならなかったものを、痛ぶることなく裁くのだろう。
いつかひなびにこの胸の内を垣間見られたなら、どうなるか。
きっとこの穏やかな時間も否定される。
「ごめん、ひなびは、優しかったね」
「ゆうりの方が優しいよぉ」
おっとりした声音が屈託なく笑った。
ひなびが隣にいるだけで、満たされる。他に何もいらないと、時々、本気で思う。
それなのに、誰より愛おしいこの親友に、ゆうりは誰より近くで背いている。