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愛してるから罪と呼ばない
第3章 真夏の花達
* * * * * * *
ひなびが大浴場へ向かうと、またしてもゆうりは沙織からのLINEを確認した。
それから凝りもしないで、再び隣室を訪ねていった。
沙織は、昨夜とは打って変わって、彼女らしい上品なナイトドレスでめかし込んでいた。
「就業時間外なので、用件は手短にお願いします」
「彼女と喧嘩しちゃった。もう会わないって」
「……残念でしたね」
「全然、思ってないでしょ」
沙織の片手がゆうりの片手を引いた。
ゆうりが客室に引き入れられると、そこにスーツケースは一人分しか見当たらなかった。
「昔を思い出していたの」
「社長が、一度も抱かせてくれなかったと話されていた、カッコイイ恋人のことですか?」
沙織の後方に足をとめて、ゆうりはカーテンを開ける彼女の後ろ姿を見つめる。
真っ暗だ。飲み込まれてしまいそうな色の端に、真珠が一つ浮かんでいた。
「名前で呼んでって、言ってるのに」
「公私分けるのは苦手です」
「なら、会社でも同じように呼んでくれれば良いんだわ」
沙織が振り向いてきた。
迷いない黒い双眸は、深い嘆きと、抗えない魔力を閉じ込めている。