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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
「ここで、ですか?」
「ええ」
美衣子は、優雅に微笑んでいた。もの静かな温度を湛えた双眸の深奥に、誠二を送り出したあとの香凜にも見られる野性がほの見えていた。
「洋服も、下着も。私や彼女達が、香凜さんの裸を見てあげると言っているの」
美衣子の指が、香凜のワンピースの裾をまくって、内股を這う。切ないほどの質感が、快楽を運ぶ異物になって、香凜をそそる。
くにっ…………
飛び上がるかと思った。
美衣子は香凜の太ももをつねり上げたのだ。
「冗談よ」
淡い期待が消化不良を起こした。僅かにでも落胆した自分自身に戸惑う。
美衣子がさっきのリリカのDVDに紐づけて、香凜をここに連れてきたのだとする。香凜は、このあと首に募金箱をかけられるはずだった。作中でのリリカは、就職難に採用試験に落ちた妹を持つ姉の役だった。リリカは妹の不採用を撤回するため、社長と人事部部長との交渉を試みた末、社内で全裸を呈した募金活動を強いられる羽目になる。
香凜を連れて、美衣子は中庭をあとにした。
長い年月を物語る、それでいて清潔な廊下を渡る間、遠慮がちな視線が二人にまといつくのもどこ吹く風、美衣子は通りかかる施設を説明しながら、泡姫リリカの話題に重点を置いた。
香凜のようにのめり込みこそしなかったものの、二十年前の自分にどこか似通う容姿のアダルト女優の存在は知っている、だが、顔かたちも肉体も、彼女の方が優れている。そう言って謙遜した笑みをこぼす美衣子は、ひとしお香凜の中で輝いた。