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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
美衣子がデスクにブランケットを広げた。オフィスは風通しが良い。普段、人事部にいる社員が膝にかけているのだろう。
香凜をデスクに落ち着かせて、美衣子はキスを再開した。触れるだけのキスから唇の内部でまぐわうそれ。香凜の片手は、美衣子の温度を求めていた。簡素ながら上質な洋服をまとった肉体に裸体をすり寄せて、美衣子さん、と、声にするだけで胸の奥がくすぐったくなる名前を呼ぶ。
花を愛撫する具合の美衣子の舌は、香凜の口蓋、歯茎、舌、歯列、本来味覚を得るところにあまねく刺戟をもたらした。キスと同じ、触れているのかいないのか分かり難い、じかに下腹の奥まで差し響かせる甘い刺戟だ。
「はぁ、んん」
じゅるっ、じゅる……ちゅく……ちゅる…………
香凜の唾液が美衣子に伝う。美衣子の唾液が香凜につがれる。
二人目とのキスの最中、香凜はものの分別がついていた。
誠二との時と違って、ロマンティックなシチュエーションではない。それは、美衣子は香凜をからかわんと演出こそしていたが、ここはオフィスだ。いつ誰が入ってくるかも予測出来ず、酔っていられる雰囲気でもない。だのに、恍惚が香凜を侵す。
「美衣子さん、手、……」
「香凜さん……」
いつでも香凜は、美衣子から触れてくれるのを待っていた。
美衣子は香凜の姑だ。手を握り合う理由もない。だからほんの時たまのスキンシップは、奇跡も同然だった。ネイルの話をしたあの夕まぐれも、美衣子にしてみれば何気なくても、香凜にとっては特別だった。
今は、香凜が求めれば美衣子は応じる。
触れたければ触れてくれる。指と指の隙間まで。