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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行



 誠二は立派だ。正しい。

 被害者は誠二の方だ。香凜こそ男嫌いをこじらせた加害者。愛というものを見誤って、世間知らずで、後戻り出来なくなってから、心理に気づいた。美衣子が気づかせてくれた。



 あの日以来も、香凜は美衣子と昼下がりの遊戯に興じている。

 美衣子は彼女が話す以上に、淡姫リリカに明るい。香凜のために淡姫リリカの出演作品を意識した風な前戯をしては、美衣子の好むセックスに移る。

 美衣子の紅茶は、相変わらず絶品だ。お茶に花、絵画、音楽。多趣味な美衣子は、屡々焼き菓子まで準備して、香凜を長話に付き合わせた。


 香凜は、誠二や彼の父親さえ知らなかろうことまで知悉した。美衣子はバイセクシャルだった。初体験は、中学一年生だったらしい。当時、若い娘が閨事を話題にするだけで眉をひそめられていた風潮だった中、美衣子は西洋絵画の裸婦像にあの独特な感覚を得て、自慰をした。女の指にのめり込んで、女の心魂に恋を覚えた。

 美衣子は、何故、片岡の男と婚姻したのか。根拠は、彼女が香凜だけにと前置きして打ち明けた、来し方一つだ。



 残酷だ。

 世間が異性間での婚姻を幸福と称えるからだの、富や名誉を尊ぶだので、彼らの誤謬に屈従する。美衣子も香凜も、それで得たのは慚愧と罪悪。


 世間に反撥したいわけではない。香凜自身がこの生活に満たされていたら、誠二に愛着していた。菜穂と出逢うこともなく、仮に美衣子が誘ってきてもほだされなかった。


 好きなものを好きと認めて、罪になる。好きになるべきものを好きになれないで、罪になる。

 さすれば、嘘も方便だ。無言の牽制の娼婦として、香凜は美衣子の、美衣子は香凜の、影の愛人として。
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