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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
女だから咎められないというのなら、香凜は女という特権を享受する。女と男に立ち塞がる壁は厚い。厚くて、高い。美衣子の配偶者にその壁の向こう側が覗けないのだから、香凜も壁の内側にこもる。美衣子の安寧を考えても、彼女を愛していることを努めて主張する理由はない。
すこぶる快気した舅は、愛息子を憂いた。誠二がアダルト女優らの演じるレズビアンに興味を持っていた息差しはない、さすれば本当に寝ぼけていたのか。どちらにせよ誠二の失望は、いずれ彼に離婚を決意させるかも知れない。そうなれば彼の体裁に差し障る。香凜も行き場に困るだろう。それが舅の鬼胎の眼目だ。
「有り難うございます。私も、せいくんに会社の話を聞いていたのに、しっかりしたアドバイスが出来ませんでした。彼をストレスに追い込んだのは、きっと私の責任です」
「香凜さん……。いや、良いんだ。アレが甘ったれているだけだ、香凜さんは何も心配しないで下さい」
たぬきを張りつけた男の目に、初めて涙が滲み出た。
美衣子との関係は闇の中に追い遣って、香凜は何事もなかったかのような日々に戻れるつもりになった。
あの夜以来、誠二が香凜を求めることはなくなった。舅の言うように、誠二も少年の顔を装って、香凜同様、隠れていかがわしいものでも観ているのかも知れない。いかがわしいメールをしながら。
ところがこの一件は、以降もしつこく香凜達につきまとった。