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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
「あ、美衣子さん寝間着忘れてる」
「わしが行きます」
「お義父様はお座りになっていて下さい。雑用は私が」
「香凜は、おふくろの風呂が見たいのか」
「誠二!」
舅の怒気が息子を咎めた。
一家揃っての夕餉のあと、すみやかに寝室に戻らなかったことを悔いる。
香凜と美衣子の疑惑から、真っ先に入院した義父は、今や誰よりも家庭を円満にしようと努めている。もとより昭和初期に生まれた男には、女が女を愛するという観念がないのだ。さすがにキスは二度としないでくれと香凜達に釘を刺しても、義娘と姑が友好なのは喜んでいる。
箱入り息子は、珍しいほど反抗していた。大黒柱の義父も、ともすれば彼自身の沽券を主張してでもいる塩梅にがなりたてる。
香凜は畳まれてあった寝間着を抱いて、そっと居間を抜け出した。あえかな花の香りが胸をくすぐる。
「はい」
脱衣所から声をかけると、曇った磨りガラスの向こうから、シャワーに混じって凛としたメゾが返ってきた。
「寝間着をお持ちしました。美衣子さん、お忘れだったから……──あっ」
旅館の大浴場やサウナなら、平気で足を踏み入れられる。それが一個人の浴室になるや、何故、こうも後ろ暗さがつきまとうのか。
シャワーの音だけで良心の呵責に耐えかねた。小心な香凜の目交を、突然開いた扉を溢れた白いものが覆い尽くした。
濃密な匂いを含んだ湯気、それが晴れると、しとりに潤う美衣子の肢体の炫耀が、ありあり現れる。