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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
「有り難う」
「いいえ。では、私はこれで」
今度は声も出なかった。
美衣子が脱衣室につま先を伸ばした。真新しい湯を連れた腕が、香凜の上体に絡みつく。春物の薄いブラウスが濡れる。美衣子の乳房が、濡れた後ろ身頃を悩ませる。美衣子の腕は、香凜の一切の動作を止めた。
「濡れちゃったわね」
「──……」
「このままでは風邪をひくわ」
ぷち……ぷち…………
二つの繊手が、器用にボタンを外していく。
湯冷めして、風邪をひくのは美衣子の方だ。喉元まで出かかる鬼胎も声にならない。こんな雰囲気にほだされていたら、また、誠二が様子を覗きに来る。自業自得が目に見えるようなのに、一時の期待に押し流される。
ブラウスがはだけて乳房を包んだ下着が覗いだ。躊躇いのない指先は、香凜の下着をなおざりに愛でて、白い果実の方を求める。
ぽろん…………
「やっと剥けた。可愛くて、いやらしい胸。下も脱いでしまいなさい」
ちゅる……ちゅ……ちゅ…………
掠れたメゾを伴うキスが、耳朶、首筋、うなじを遊ぶ。
美衣子の二つの指の腹が、メレンゲの角の先端に強張る桜色を、くにくに啄む。香凜を後方から羈束していた抱擁の一方は、下腹に下がっていっていた。美衣子は片手でスカートのファスナーを下ろして、香凜の下半身を暴いてゆく。
濡れた衣服を脱ぎ捨てた。香凜は美衣子に踵を返した。
香凜をしどけなくした女。美衣子の女体は、目路に触れただけで犯している気分になる。
「私、やっぱり……」
「やっぱり、何?」
「タオルを一枚、貸して下さい。寝室に戻ります」
「物欲しそうな目をして、意地を張らないで。香凜さん。私に見惚れているんでしょう?」
美衣子の誘導は香凜を半ば強制的に浴室へ連れ込んだ。美衣子がどれだけの力加減で香凜の手を引いたのかは分からない。香凜は、或いは自ら美衣子の魔力に絡め捕られたかも知れなかった。