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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
香凜は美衣子に惹かれるほど、舅が疎ましくなる。
あの恋仇は、毎日、毎夜、平気でこの美しい姑と枕を並べているのだ。美衣子のたわやかな心魂を平気で感じて、肉体だけにとどまらない、思考も人生も、彼は持ち物同然にして、彼自身も彼女に多くのものを預けている。
香凜なら少し触れただけで、気を遣りかねないほど打ち顫えるのに。
「香凜さんに、こんな罪、重ねさせたくないわ。私は貴女だけのものになれない。世間は結婚している人間同士を肯定する。私は何と言われても構わない。けど貴女まで、非難されることはない」
「罪、……美衣子さんも、自覚はあるんですね」
浴槽から見上げる美衣子はさしずめ俗世のヴィーナスだ。
シャワーの湯が、白い素肌を真珠のような炫耀に覆って、仄かに紅潮した顆粒層にみずみずしい潤沢を与える。濡れた黒髪が化粧を落としたかんばせ、肩、乳房に張りついて、その眺めはみだりがましい。
「私達がこうも似てさえいなければ、私は貴女の義母のままでいられたわ」
「──……」
「若い時分の恋に浮かれて、ひとときの感情で一緒になって。香凜さん、せいくんを良人に選んでくれて有り難う。ただしあの子に、香凜さんの気持ちはないんでしょう。貴女は、深く高らかなところに耐え難い欲望があるんでしょう」
美衣子は話を続けた。
厳格な家庭に生まれ育って、友人や恋人との交際も不自由だった。美衣子が避妊を誤った相手が片岡家の長男だったことだけが、不幸中の幸いだったという。両親は二人の過失を咎めた。彼らが美衣子達を許すには、罪人達が縁を組むより他になかった。
「あの人と恋愛したのは興味本位よ。そのために、私は一生を……女としての喜びを、台なしにした」
美衣子は女に枯渇した。女を愛して、その肉体にあまねく欲望をぶつけたかった。いかがわしいDVDをおかずにしたこともあった。香凜のように出会い系のネットワークを利用して、実際に女と外で会ったこともある。