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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
「誠二は愛しているわ。いっそあの子が精子バンクでつくった子なら良かったのに。あの子の父親があの人だったから、私の自由はなくなった。あの子が、香凜さんとの子供だったら良かったのに」
「…………」
「香凜さんは、私のタイプだったの。決して知らせるべきではなかったこと。けれどあの昼、貴女の寝室を訪ねて良かった。やはり香凜さんを諦めきれないほど、貴女が大好きだと分かったから」
「…………。美衣子、さん……」
美衣子はずるい。これでは、香凜ばかり美味しいところを取っていることになるではないか。
愛されてから、愛していると気がついた。美衣子から香凜を誘ったのは事実だ。あの工場での一件も、香凜はいっそ美衣子の嫌がらせを受けているのだと疑っていた。それが美衣子の赤心に触れて、倣うようにして彼女に執着していった。自分を愛する人を愛する。誠二の時とまるきり同じだ。ただ違うのは、何度まぐわっても耽溺してゆくばかりのところ。
「おふくろ…………」
香凜達が浴室を出ると、男の青い顔があった。
誠二は居間にいた数十分前からは想像もつかないほど憔悴して、美衣子をただただ呼んでいる。
「貴方……!」
「お前、今の話は本当か。香凜さん……も、入っていたのか……」
実際被害者の誠二が義父に庇われるようにして、心細い目で美衣子を見ていた。
「美衣子…………恥ずかしくないのか。君も香凜さんも女だぞ。今時の姑は、歳下の嫁の裸を触るのか。風呂で息子を邪険にするのか。君の所為で、誠二までおかしくなるだろう!」
「おふくろ、本当……?オレがおふくろ、の、……迷惑をかけたのか……?オレが生まれたことは、迷惑だったの……?」…………
舅は、今度こそ誠二の誤解を疑わなかった。女と女だの姑と義娘だの、見れば分かることを指摘して、まことの酷愛を否定する。
香凜は誠二を裏切った。美衣子は配偶者を。
裏切ったが、それは罪悪感におびやかされながらの不義だ。誠二と彼の父親には悪意がない。事実攻撃していても、彼らのものさしのみを前提とした攻撃は、彼らを頑なにしているだけだ。