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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行

* * * * * * *
両親の間に何かしらの結束が作用しているか、もう随分と昔から覚束なかった。
母親の母親はくだらない男から娘を奪い返すことだけ考えていた。男の方はずぼらであれば、世間が悪評を下すだけの問題も起こさない、不甲斐ない人物だったものだから、女の方は良人を見限る将来の夢を想い描いては、のんべんだらりと同居して、空想だけにとどめていた。男の欠陥は芋蔓式に、一つ見つかればまた一つ、女の目につく。女は右手で数えられるほどには、男に離縁を提案した。無力な小蝿ほど無害な男は、小さなエゴイズムを女にぶつけた。それなら、オレはこれからどうして生活すれば良い。
女は男の小間使いだった。娼婦の役目こそ解放されていたものの、家業を放って男が怠慢している分の埋め合わせまでする小間使いだった。
菜穂と挟んでつついた鍋は、冷えた心身をあたためた。
しとりを含んだ優しい匂いと軽らかな蒸気。茹でた野菜独特のものが香凜をもてなして、かじかんだ内側に染み通る。
香凜は、何故、菜穂には何でも話せたのか。笙子が一笑に付したこと、肉親らがジョークと捉えたこと。彼女だけは現実として受け入れた。
「元気ないね。喧嘩?」
白菜の絡んだマロニーを吸い上げていると、菜穂が話題を転換した。
菜穂は努めて美衣子とのことを思考から追い払っていた香凜に、今し方まで合わせていただけのようだ。
半透明の麺を咀嚼しながら黒目を動かす。
香凜を見る菜穂の目は、何でもない世間話でもしている色をしていた。

