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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行

* * * * * * *

 大学にいた時分からの腐れ縁に、美波笙子(みなみしょうこ)という女がいる。

 各々別の職に就いて、毎日のように顔を合わせる環境をさえ離れたあとも、香凜は彼女とのんべんだらりと連絡をとり合っていた。香凜が例の合同コンパに顔を出すのに至ったのも、数合わせが必要だからと笙子が誘ってきたからだった。

 香凜が有名スーパーマーケットの事務局を寿退社したあとも、二人は顔を合わせている。





「だから、私、ダメみたい」

「え?」

 ことの終始を話した香凜は疲弊していた。甚だしく字数を使った割りには、支離滅裂な身の上相談になってしまった。

 香凜にとって、笙子は遠方になった親友らに比べれば、選択教科の退屈しのぎであったり、就職後も会いやすい距離にいたりしただけの間柄だ。無防備に胸の内を明かすような仲ではない笙子に、まさか、婚姻後に男嫌いを自覚したという深刻な私情を打ち明けるのにはそれ相応の度胸がいる。天真爛漫で常識人、笙子は合同コンパを企画するような軒昂としたところも目立つ一方で、恋愛においては側から見ても一途だ。


「せいくんと、上手くやっていけるか……、ダメみたい」


 もつれる思考に引きずられて、口舌の方も、香凜のコントロールがきかなくなっていた。

 自業自得だ。初めての恋愛に酔いしれて、好奇心や優越感を満たすだけの男のプロポーズを受けた次には後悔して、自分自身の落ち度を指摘されることを怖れる。香凜は、いかにしても具合の悪いばかりの事実を口ごもっていた。
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