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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行
「気に入らないところがあるの?」
「キスや、……夜のこと」
「キモいとか?」
「せいくんの所為じゃ、ないと思う」…………
笙子は、存外に親身なコメントを並べていった。
自分の初恋は中学二年生の頃だったが、当時交際していた男の子にも不満はあった。ただし相手にも不満はあって、互いに譲歩出来るところはして、改善に務める内に、絆も深まっていった。今交際している男も完璧ではない。完璧ではないなりに、彼のまごころは分かるから、別れようとは考えられない。
「不満なら、いくらでも聞くよ。女子トークってそういうものでしょ。片岡くん、実は下手なの?キザすぎるとか?香凜、ここまで話してくれたなら、話しちゃえ」
「うん……」
「ま、私が香凜の立場なら、片岡くんの財布にだけでも惚れてるけど」
「財布?」
「男は、惚れて一緒にいるものじゃないの。物と同じ。……って言えば誤解を招くか。香凜、映画やドラマの愛なんて、フィクションだよ。愛してなくても、その男の長所が香凜の役に立つなら、一緒にいる価値はある。プロポーションに、スポーツ能力、学力、お金。彼女や嫁なんて職業だと思うんだ。男が女をおかずや家政婦にして満足するのとおんなじで、女は男を飾りや金庫にして暮らす。実家暮らしの学生さんはイケメンや秀才が好きだし、私達の年齢になると、貧乏人を結婚相手に選ばない。香凜だって、もし生活費に貢献しなくちゃいけなくなっていたら、今みたいにのんびりお茶も出来てないんじゃないかな」
「それは、せいくんは顔も整ってるし、お父様は社長さんだけど……」
利害一致が交際や結婚のものさしなら、虚しい。あまりに単純な計算式が、香凜を失望させてゆく。それと同時に、あの違和感にも納得がいく。
極度の男嫌いでも、仕事と割り切れば結婚生活にも慣れられるのか──…。
どのみち戻る場所はない。復職も出来ない。