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愛してるから罪と呼ばない
第1章 逃避行



「会いに行かないんですか」

 すこぶる塞いだ恋人に、香凜は何度か持ちかけた。二人で選んだ食卓テーブルが届いて、十日も経っていない。鉛のように過ぎてゆく日々は、引きずるように重く、心細かった。

「私もご一緒します。せいくんとは縁が切れてはいけません。彼の会社に連絡をとれば、きっと会えます」

「携帯も繋がらないのよ。私の話なんて聞きたくないんだわ。罪もないあの子を傷つけた、私には何を言う資格もない」

「──……」

 そんなことより、夏はどこかへ出かけない?遠くて、楽しいところへ。



 香凜が美衣子を求めるように、美衣子も、美衣子なりに香凜を重んじている。つきまとう未練を振り切って、あまねくまごころに背いて手に入れた、二人の我欲。あれだけ夢見たものがあるのだ。ここでは誰にも冒されない。干渉されない。







「美衣子さん、まだ立ち直れないの?香凜が連絡とったら?彼氏だったんなら」


 いつしか梅雨は明けていた。しとりを残した夏空は、弾むような暖気と名残惜しげな冷気を代わる代わる注ぎながら、地上を青く照らしている。

 結局、香凜は菜穂に終始を話した。香凜は、打ちひしがれる美衣子を一人で支えららるほどの器量を持ち合わせなかった。


「美衣子さんは、会えないって。会いたいくせに」

「…………」

「私は、どうしたら良いのかな。美衣子さんと一緒にいたかっただけなのに。好きな人を好きになって、何で他の人が苦しまなくちゃダメなんだろうね」

 あの夕まぐれの電話の末尾で、誠二は捨て台詞も吐いたらしい。


 中途半端になるくらいなら、オレなんか産むなよ。


 やるせなくなった。反撥にも通じる熱が、香凜を襲った。

 誠二が傷ついたのは、香凜の所為だ。美衣子は何からも逃げないで、三十年近くも舅と寄り添って、誠二に無償の愛を与えた。それが香凜を愛しただけで、誠二は美衣子の恤愛全てを否定したのだ。
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