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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
彼女の甘い声を聞いていられる。ささめきを紡ぐ息遣い、彼女の悩ましげな喉の癖が、私の胸を締めつける。吐息という誘惑が、腰の奥深くへ降りてゆく。降りた重みは、少女のように無垢な彼女の世界観に私を誘う片手間に、辛辣に泉門に働きかける。
画面に映る白い指。きらびやかな可能性を秘めたドロップのような品々をつまみ上げて、おりふしカチャン……と、現実的な音を奏でる。…………
内容などどうでも良い。きら音ちゃんの発信が、私をしならせる呼び水になるだけだ。鮮度が薄れたとしても、私はきら音ちゃんを再生する。同じ情報を、繰り返し、何度も。
動画を上げていく女の子達。
彼女達は、甘い声、甘い心、さしずめ甘い夢をとりどり備えたマカロンだ。とりわけ私の気に入ったフレーバーが、きら音ちゃんだったというだけの話。
* * * * * * *
華やかななりのマネキン達が、営業を終えたレストランカフェに集っていた。
隔月の親睦会。
私がこの商業施設に勤務するようになってから、長らく変わらない顔触れもあれば、前回まで見なかった顔もある。出欠は懇意だ。単に引きこもっていただけの従業員かも知れないが、最近入館証を作ったばかりの女の子は覚えている。
会場に散らばるのは、八方、さしずめ着せ替え人形だ。モードにカジュアル、ガーリー、ナチュラル、ロリィタ、ボーイッシュ。…………
ともすれば機械的なまでに完成度の高い彼女達を装飾している活気は、つい数十分前まで華やかなざわめきを奏でていた客達にも優る。にも関わらず、そこはかとなく漂うのは、残業に打ちひしがれた会社員も顔負けの倦怠感。
「お姉さーん」
洗練されたソプラノが、肩を叩いた。
私を呼んだ黒装束の女性は、格好こそ彼女の勤務しているコスメショップの制服姿だが、笑顔も声も、隙を許すまいアパレル店員に匹儔してよそゆきだ。