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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
「お疲れ様です。来られていたんですね」
「遅番でしたから。タダで夕飯もらえるし、どんなのか気になって」
「そう言えばお見かけしたことがありませんでした」
女性の胸には、「優川」と書かれた名札が付いていた。改めて名前を確かめたことがなかったが、優川さんというらしい。
「動画、どうですか」
「え、……」
「いつも有り難うございます。あーっ、昨日のネイル、さっそく使って下さっていたんですね。それに……」
「あっ」
「ふふっ、良い匂い。んん?お姉さんの匂いかな」
「あの……」
優川さんの指先が、私のそれを掬っていた。優川さんのもう一方の手のひらは、私のうなじを。それから髪を。
接客業が板についた人間は、人懐こい。見た感じ私より歳上の優川さんは、いかにもベテランの貫禄がある。
黒いアイラインで縁取りされた侠気な目許が、私の、ピンクとレモンを交互に塗布してある五本の爪に微笑んでいた。無邪気だ。丸い鼻先、それでいて青みがかったハイライトの映える通った鼻梁にフリージアの香りを提供した私の髪が、他意ない指先をはらはら離れる。
私に微笑んでいるわけではない。私を撫でているわけではない。
思わせぶりな職業病が演じる好意をそっと否定して、右の手は私の方から離した。
「お一人ですか」
「あとでもう一人来ます。学生バイトの二十一の子」
「ふぅん、四つ下か」
「お姉さん、お若いんですね。さすが可愛いものが似合いまくるわけだ」
「いえいえそんなことは……」
団体客用の中央テーブルに、懇親会のために残業させられている従業員達が腕を振るったビュッフェが並べられていった。ドリンクはセルフサービスだ。
優川さんが烏龍茶をグラスに注ぐ傍らで、私はカモミールティーを入れた。