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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
* * * * * * *
熱心にカメラアプリで写真を撮って、たわやかな動作でスイーツを味わう。マカロン生地やバタークリームは残して、必ず小ぶりの果実から。紅茶の匂いを肺いっぱいに吸い込んで、何が面白いのか、水面を見つめて。プティガトーを頼んだ彼女は、スポンジに詰まった気泡を見つめる。
そのお客様の存在感は、鮮烈だった。
一人客が珍しかったのもある。その上、こうにも通いつめてくれるお客様も少ない。極めつけは、装飾性に長けたパステルカラーの洋服。緩く巻いたミディアムの茶髪には必ずリボンがついていて、ネイルも抜かりない。きら星ちゃんも好んでいるメーカーと同じバッグには、きら星ちゃんの好んでいるキャラクターのキーホルダーがついている。
Hamadaの雰囲気に合っている、と思った。
そんなお客様の名前を、数日前、私は知った。
茅野星音(かやほしね)ちゃん。アルバイトの子の一人が、偶然、掛け持ちの店の関係で知り合ったのだという。
星音ちゃん。
名前まで、かの動画の投稿ユーザーを彷彿とする彼女を、私は単に印象的なお客様として認識しているだけなのか。
似ている。きら音ちゃんが明かしているのは、声の他に、首より下だけ。私は彼女の顔を知らない。きら音ちゃんの好むようなものを、きら音ちゃんの所持しているものを彼女も身につけているだけで、二人を結びつけるのは短絡的だが、私の意識は、確実に星音ちゃんを追うようになっていた。…………
「話しかければ良いじゃないですか」
「お客様が楽しまれているのを邪魔してはいけないわ」
「この前は話しかけてたじゃないですか。ああいうノリで。大丈夫です、茅野さん、人と話すの好きっぽいし。確かに一人でいらっしゃること多いですけど、明るくて気さくな──……」
「声が大きい!」
私は、唇に人差し指を立てた。
ボブの黒髪を二つに結った従業員は、だのに尚、声だけ潜めて雇い主をなじる。
「じゃあ、店長が話しやすいように、私がナンパしてきてあげます」