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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
* * * * * * *
女性をつばきさんだと直感した私の本能は、同時に、彼女の非現実性を訴えた。
胸まである黒髪をサイドにまとめてアクセサリーは一つもつけないつばきさんは、エプロンに覆われた洋服も、比較的渋い。山吹色のブラウスに、襟元にだけオレンジの花の刺繍。パンツはチャコール。くっきりとした目鼻立ちは、化粧によるものではなかった。
装飾にこだわる人間がいれば、正反対の人間もいる。私のような職種でなければ、実のところ後者の方が上回るのではないか。事実、街を歩けば私は異端。示し合わせたように抑えた色相で身体を隠す女性達は、意図して華美にならないよう心がけてでもいるようだ。マネキン達の群れが滑稽に見える裏腹に、私の目は、量産された眺めにも馴染まないよう出来ている。
つばきさんは、おそらく街を歩いても浮かない。だのに私は、身体ばかりか存在感さえ隠したがる人達の群れに迷っていても、つばきさんを見つけ出せる自信を持った。
美しい。
単純な好意を覚えるために、理屈はいらない。条件も。
美味しいです……。マカロン、好きです。
私の胸は、その口舌だけを舞い上がらせた。
つばきさんはとりとめない雰囲気で、その他大勢いる客の一人にまごころこもった愛想を振る舞った。
そのつばきさんに誘われて、私は今、閉店後のHamadaにいる。
従業員達は帰っていった。つばきさんは、やはり楚々とした格好で、閉店作業の前と後とで違うのは、エプロンの有無だけだ。