この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
「お待たせ、ご飯かおつまみ、どっちの気分?」
「おつまみ、ですかね。ご飯食べたら、スイーツの味、なくなっちゃう」
味覚にやんわり染みた余韻は果敢ない。つばきさんは笑ったが、他の人間の手から生まれた夾雑物を受け入れたい気分になれない。小型のスイーツ一つでは満たせない、人間の胃袋は不自由だ。
つばきさんは私を連れて、近傍の飲み屋街に場所を移した。入ったのはダイニングカフェ。
半個室のテーブル席は、申し訳程度の照明が視界に飴色を巡らせていた。囲いの向こうで鳴りはためく喧囂が、気心知れない二人の歓談に、良い塩梅のバックグラウンドミュージックを添える。
甘いカクテルを傾けて、執拗な食味をつまみながら、私達はとりとめない歓談をした。
ただ優れたスイーツを出して洒落た空間を演出するだけでは、足りない。それでは誰が店を切り盛りしても同じだ。
それがつばきさんの通念だという。そのために、つばきさんは創業に備えてヨーロッパで学んだ数年前、製菓の片手間、土地に根づいた国民性や文化にも馴染んでいった。
「仮にもステレオタイプの女の子達を客層にした店を営むなら、私生活も宝石のようでありたいって思ったの。私自身も」
誰にも知れない時間と労力、資金。絵に描いたような日常をブログに披露するつばきさんは、だからと言って、もっぱらうわべを気取りたがる女の子達とは違っていた。つばきさんを飾る日常は、装飾であって、彼女自身の心でもある。
箸を持たない一方の手の、つばきさんの薬指に煌めくプラチナも、或いは彼女自身のプロデュースに不可欠だったのか。
この世界に存在する女の指に煌めく銀の桎梏。それを提供する大多数は、何故、男という生き物なのか。