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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
翌る日も朝から出勤なのに、二人してそこに触れようとはしなかった。
よく眠れるから。そう言ってつばきさんが淹れてくれたカモミールティーの熱と香りは、何故か眠気を取り除く。
配偶者を持つ女性と、着道楽で装飾主義の女。
こうした二人が揃っても、到達するのは浮いた話だ。
「気になる人は、います。今は良いかな。恋愛運全くなくて、それに引き替え、お洋服や可愛い雑貨は、絶対に私を裏切りません」
「納得。星音ちゃんは可愛いからモテそうだし、もったいないとは思うけれど、私も、恋人やパートナーを作ることを絶対とはお勧めしないわ。それが最上級の幸福だと、誰に決められるものでもないもの」
「つばきさんこそ、女の子にも男の子にも、昔から人気だったでしょう」
「まさか。女の子になんて、全然モテない。星音ちゃんは、どっちが好きなの?」
つばきさんのような話し相手は珍しい。大抵の人間は、私の恋愛対象が男であることを前提で話す。
「星音ちゃん」
つばきさんは、おりふし唇を開きかけては、閉ざしていた。私が、それだけ彼女の味覚を捉える部分を注視していたのだ。こまやかな甘みを運ぶスイーツを生み出す繊手。繊細な風味を確かめる唇。つばきさんの唇が、私を啄ばんだとしたら。人気パティシエの味覚は、私という一個人に、どれだけの糖度を認めるだろう。
「男とか、圏外なんです」
一緒にいて安心出来る人ほど、理解力を疑わないで話せる。
「なのに、好きになった人は男の人を選んじゃう。恋愛運以前に、好きって伝えるのが遅れるんです。私が消極的なのがいけないのに、それで一方的に嫉妬しちゃう」
「それで、連帯責任なんだ」
「全部の男がネコババに見える」
「あははっ」
つばきさんは、しとやかな顔を崩して豪快に笑った。胸が苦しそうなほど笑い声を上げたあと、ふっと、いつもの彼女の雰囲気になる。
たった二人きりのアロマの檻の中で、つばきさんの目も、私の唇を見澄ましていた。私が気づかなかったのだ。おそらく入浴を終えた時から、もしかすればそれ以前から、私はつばきさんの目交いにいた。