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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石



 婦人を見送ると、私は巡回の当番を続けた。

 期間外セールを行なっている店がないか、無許可の什器が通路にはみ出していないか。違反している店舗は滅多にない。客足もまばらな館内を歩きながら、私はもっぱらつばきさんを思い出す。

 つばきさんの店が好きだ。彼女のこだわり溢れるあの店が。スイーツが、お茶が。

 顔を合わせたのはたったの二度で、まともに話したのは昨夜が初めてだ。

 それなのに、私はつばきさんの隣にいたいと望んでいる。あの指から生まれたマカロン、あの指で注がれたお茶。喉に流し込めば私の総身を巡ってゆく。腰の奥まで、深く深く、つばきさんが私を貫く。

 隣にいて、その薬指を我が物顔で独占して、彼女をパートナーと呼ぶ。そうした果報者がこの世のどこかに存在している。おぞましくなる反面、優越感にも浸っていた。


 私にしか出来ないことがあるからだ。かの男には出来ない、つばきさんへの愛情表現。


 別れ際、私はつばきさんに約束したことがある。

* * * * * *

 星音ちゃんは、きら星ちゃんだった。

 甚だ出来すぎている、都合良いほど狭小な世界を実感しながら、私は今日一日上の空で過ごした。

 星音ちゃんがパティスリーHamadaの味を引き立てている事実は分かりきっている。昨夜も、いっそ過大評価ととれるほどの賛辞を浴びたし、いやが上にも感想文を求めたいとも思わない。ただし、それはその他大勢の客に限る。

 彼女の唇がマカロンを食んで、あの声が、私の作ったものを語る。私はそこに価値を見出す。とっくにスマートフォンにブックマークしている彼女のチャンネルを、夕方から夜にかけて、繰り返しチェックした。星音ちゃんが仕事を定時に上がれたとすれば、ビデオを撮るのは夕方以降だ。マカロンは今朝、手土産に渡した。形式はブイログにすると聞いているから、編集の時間もかかるまい。

 良人は、深夜に書類を取りに戻る。今夜も朝まで寝室を自由に使える私は、閉店業務の時間になると、いよいよ下腹部の奥が疼いた。
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