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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
動画を配信しているプライベートは話しても、身近な人間にはIDまで教えない。優川さんや、彼女に出逢うまでに惹かれた人──…結婚退職していった、昔事務で世話になった先輩。彼女らの誰にも教えなかったし、別離以降、どこかで会うこともなかった。
つばきさんへの関心も、いつか終わる。
腹の底に鉛の重みを溜めながら、つばきさんとの泡沫を噛み締めて、もどかしさを喉の奥に仕舞い込んで、彼女の隣を超えるものは望まない。見るからに世間の求める女の子の姿をした私は、仮につばきさんが配偶者を持っていなかったとしても、けだし彼女に相応しいとは思われ難い。
諦めることに慣れていた。一人でいることに麻痺していた。
だからこそ、尚更、つばきさんの赤心が身にしみる。動画を配信して、今夜も配偶者が留守ということは聞いていたが、まさか深夜に、すぐに反応を受けるとは思わなかった。
"素敵なお姉さんです。(←調子に乗っちゃった)
マカロン紹介してくれて有り難う。これからは、きら音ちゃんのストーカーにならない程度に、たまにコメントさせてもらうわね"
それが、動画サイトのつばきさんの形跡だ。
"電話して良い?"
このLINEのあと、私は返信もしないで無料通話のボタンを押した。
つばきさんに打ち明けられて、私は納得がいった。
親しく話をしたその日に、つばきさんに動画を見せたこと。私は、きっとつばきさんに惹かれるために、誰のものにもなっていなかったのだ。
「もしもし」
『ごめんね、こんな時間に』
「いいえ。有り難うございます。コメント、有り難うございました。ごめんなさい、語彙力足りなくて」
『ううん』
きら音ちゃんの大ファンだから。
実は、ずっと知っていたから。
諦念とは真逆の感情を伴うものが、久し振りに押し寄せた。