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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
* * * * * * *
私は夜陰へ飛び出した。タクシーを捕まえたあとは、瞬く間だった。遠慮がちな文面をLINEに書き込むつばきさんに、私を迷惑がる気配はなかった。
私の衝動につばきさんは応じてくれた。移動中のんべんだらりと話していた流れから、チャイムを鳴らす必要もなかった。
「あの、私……」
つばきさんは歓迎の文句を添えて、夜明けも待てない訪問者を招き入れた。思いは溢れんばかりに私達を急かすのに、二人の女は、相も変わらずとりとめない口舌だけを選別する。
「動画、有り難うございました」
「こちらこそ。あれでお客様が増えてくれたら、星音ちゃんにお礼しなくちゃね」
「こちらこそ、……マカロン、いただいちゃって。それに動画の常連さんだったなんて、なんか、恥ずかしい……」
「今更?」
「私は観てもらってるの知らなかったのに、つばきさんは私を知って下さっていたなんて……。道端で一人で変顔してる時、見られていて気づかないようなものじゃないですか」
「星音ちゃんは、変顔なんてしていないじゃない」
私はつばきさんのスイーツを、つばきさんは私のよそゆき姿を。互いに手軽な称賛を交わして、私達はどこか緊張した時間を埋めた。ただし、つばきさんが私を持ち上げてくれる部分は増えた。
「やっぱり、私、星音ちゃんの声……好き」
「そんなにですか?」
「──……」
身なりより声を褒められる方が、遥かに高ぶる。私には、音声だけが真実だ。さして執着のない、いわゆる可愛いものを動画に紹介している時でさえ、声だけは私を偽らない。