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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
つばきさんと私を窮しめた逡巡は、まるで永遠だった。
私は昨日と同じ寝台にいた。まる一日前、つばきさんは私にここを譲るために、床に寝具を敷いていた。今夜は余分の寝具がない。
「私なんかで、良いんですか。……」
「星音ちゃんじゃなくては、いけないわ」
あるじの職種を語る構成要素のなかった部屋は、とろけるような乳製品が香っていた。それから軽らかな糖度を抱えたホイップクリームを縫って鼻腔に働きかける、甘酸っぱい果実の主張。みずみずしい酸味は甘ったるいフレーバーをいやが上に引き立てて、官能的なケーキの匂いを完成させる。
私が嗅いでいるのはさしあたりケーキだ。或いは、トライフル。それかパフェだ。
臭覚に、触感に働きかける甘ったるさの出どころは、つばきさんがキッチンから運んできた製菓材料。
こんな時間に甘いものを手の届く場所に置いている背徳感が、淫らな思いを誘発するのか。それとも、ケーキだのマカロンだの洋菓子は、媚薬に似た成分でも含んででもいる食べ物だったのか。
私はつばきさんに借りた寝間着姿で、匂いについて思考していた。
「綺麗なイチゴ……。それに、きめ細やかなホイップ。さすがつばきさんです」
「有り難う。今のは、特に丁寧に準備してきたわ」
…──長年の夢が叶うから。