この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
腹の奥を甘えたで柔らかな舌が這いずる。剥がれてゆく真綿のように、こまやかな繊維が細胞という細胞をくすぐり尽くしてゆかんばかりの呼び水が、総身に広がる。幾多もの繊維の質感を借りた舌は、時に女の指にもなりすます。
くすぐりは欲望的とはかけ離れている。野生的ともほど遠い。
こまやかな思いやりの横溢した呼び水は、実際、私には指先一つも触れていない。
「ふっ……く……」
横に立てたスマートフォンが、パステルピンクや白の混じった画面を映し出していた。鼓膜に働きかけるのは、星音ちゃんのささめきだ。否、今はきら星ちゃん。
社会の理不尽など知らないような少女の声は、無知で無垢な口舌を使って、そのあるじは開封したばかりの化粧品を並べていく。さり気なく鎮座した二体の人形は、某有名ファンシーショップのメインキャラクター達だ。マカロンより重たいものを持ち上げたことのない具合の指が、わざとらしいほど頼りない動作で、画面上を行き来する。
…──◯◯シリーズ、夏のものが出るのが楽しみだったんです。カラー名は、シェルピンク、サマーホワイト。二色買ってしまいましたぁ。
…──こちらは、チークになります。すっごく可愛いですよねぇ。発色を見てみましょう。こうやって、ブラシにとって、…………
折れそうに白く細い手首を、ストロベリーミルクのチークの粉末をまとったブラシが滑り出す。きら音ちゃんは珍しい宝物でも見つけた妖精よろしく穏やかにはしゃいで、購入品の紹介を続ける。
動画投稿サイトのユーザーは、視聴者の嗜好を押さえている。きら音ちゃんに至る以前、私は他のユーザーの動画も複数観たことがあるけれど、声や個性の好みはともかく、こうした傾向の投稿者は、どの女の子も深夜の通信販売番組よろしく巧い。