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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
ドラマや小説より丹念な呼び水を経て、私は最後の扞禦を下ろす。
つばきさんだけ着衣してずるい。いたずらに恨み言を喘ぐ私に、つばきさんは決まって答える。きら音ちゃんは、声で私をいつも犯している。私だけ貴女を犯さなければ、不公平だわ。互いに互いを求めながら、結局、いつも身体の奥深くまで貫かれていじられるのは私ばかりだ。貫かれていじられて、歓喜している。
私は苺のミルクティーの存在を失念していく。水面が三分の一ほどの高さになる頃まで意識の片隅にあったのに、銀白色の波が寄せては返すようになると、冷めきっているのも気に留めなくなっていた。
呼び水も長ければ、遊戯も終止符の打ち時が難しい。
「つばきさん、来月はいつ会えますか?」
満たされていた部分が咥えていたものを失うと、私はつばきさんにキスをして問うた。夜に少し一緒にいることは出来ても、昼間から外でゆっくり出来る日が重なることは限られている。
「えっと、来月は、……」
つばきさんが黒目を動かす。聡明な潤沢を湛えた眼差しの先に、ポスター式のカレンダー。近い日付が赤いハートで囲ってあった。
「あ、……」
刹那、つばきさんの顔が歪んだ。甚だ不快な歪みではない。それは本当に一瞬で、一秒たりとも目が離せない私にだから気づけたのも同然だ。つばきさんは、確かに気まずい気配を見せた。
記念日なの。
私は手短な説明に、なるべく感情を面持ちの裏にくるみ込んで相槌を打った。