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愛してるから罪と呼ばない
第2章 そのマカロンはまるで宝石
* * * * * * *
パティスリーHamadaには珍しい男性客の一人落ち着くテーブル席へ、私はプティガトーを乗せたトレイを運んだ。
淡い柄物のシャツに、光の加減で臙脂が入った色にも見える明るいチャコールグレーのスーツ。平日の会社員にしては自由度の高いそのお客様は、併せてペパーミントとレモングラスのハーブティーも所望していた。
「お待たせいたしました。日向夏のムースとレモングラスミントティーでございます」
「つばきさんっ」
会社員の大きな黒目は私を認めるや、ひときわ見開いた。檻から抜け出た獣にでも遭遇したのではないかという驚愕ぶりだ。
「後ろ暗い期待でもしていた?私はキッチンにこもって、このメンバーなら、ほとんど川原さんや三浦さんがお給仕するものね」
「嬉しいんだよ。来てくれるとは思わなかったから」
「三浦さんが教えてくれたの。貴方が来てくれているって」
私はパートナーに賞味を促す。家族同様の相手でも、客として来店している以上、せっかくのお茶もスイーツも最高の頃合いで味わわせなければ、私の矜持に障るのだ。
「美味い」
「知ってるわ。もう少し面白い言葉が欲しいな」
「……ぷるぷると口の中で踊るムースが、しゅわっと溶けて……」
「擬音ばっかり」
パティスリーが無人になることは平日度々あることだ。私達はその間、とりとめない言葉を交わした。
閑暇が束の間というのも例にもれない。
パートナーが私の諧謔に軽く腹を抱えていると、にわかに扉が開いて四人連れの女性が見えた。私はプライベートの表情を解いて、お客様の案内へ向かう。