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雨 音
第1章 記憶

私はもう6年ほど恋愛というものをしていない。
一人っ子の私は親からさりげなくお見合いを勧められたりもしたけど…なんとなくごまかして断り続けていた。
親のためにはそろそろ考えなきゃいけないことは分かってるんだけど…。
そんなことを考えながら歩くこと10分。
高いビルとビルの間からひときわ高いビルの会社が見えてきた。
「相変わらず高いビルだなぁ…。」
ふと立ち止まって見つめていたら、雨が強くなる。
「…っ」
ズキズキと頭が痛む。
もう、忘れたいのに。
「…せ…はせ…葉瀬っ!」
「…っ、加賀見…」
いつの間にか隣に立っていたのは同期の、加賀見 了―かがみ りょう―。
入社して3年同じ部署で仕事していて、時々一緒に飲みに行くような、そんな仲だった。
二年前に加賀見は元々希望だった部署に異動になってからは少なくなったけど
加賀見はよく私を気にかけてくれていた。
「頭、大丈夫か…?」
そして、5年一緒にいるだけあってこの季節の大雨の日に酷い頭痛に襲われることは知られていた。
「…もう、変な言い方しないで。」
心配そうに私の顔を覗き込むその目を軽くひと睨みしてまた歩き出す。

