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サイレントエモーショナルサマー
第2章 6月某日金曜日
「ね、志保さん、いつになったら俺のこと好きになってくれます?」
「だから…気持ちは嬉しいけど私は藤くんのこと好きにならないよ」
「なんで断言できるんですか。じゃあ中原さんのこと好きなんですか?」
「…俺を巻き込むな。藤、お前飲み過ぎじゃねえの」
ゆったりとした空気をぶち破った藤くんは大酒飲みの彼にしては珍しく浩志が言うほど酒を飲んでいるようには見えなかった。
「浩志のことは好きだよ。でも、これは友愛。藤くんはただの後輩」
「中原さんはどうなんですか」
「…俺にとってもお前はただの後輩だ」
「俺じゃなくて。志保さんのことですよ」
「は?」
「志保さんのこと、女としてどう思ってるんですか?」
私自身が一度も気に留めなかったことを藤くんが気にする理由が分からなかった。そういうのもういいよ、と料理を薦めても彼の目は浩志に向けられたまま動かない。
「…女とか男とかそんなんどうでもいい。都筑は都筑、それだけだ」
そう言って浩志は手のひらを上に左手を私の方へ突き出した。意図を察し、鞄の中から取り出した煙草の箱を渡してやる。彼も私も喫煙者であるが、会社の人間の前で吸うことは殆どなかった。
そんな浩志が今、この場で私に煙草を要求したということは闖入者の発言に少なからず苛立っているのだろう。
「志保さんってほんと中原さんのことよく分かってますよね。それでただの友愛って嘘でしょ」
「嘘じゃないよ。私、嘘だけはつかないことにしてるもん」
探るように目を細めて私を見る藤くんには私が煙草を持っていたことに驚いた様子は見られない。隣で深く息を吐くのが聞こえたと同時に3人の間にゆらりと煙が立ち込める。