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サイレントエモーショナルサマー
第2章 6月某日金曜日
煙草を挟む長い指に目がいく。綺麗に爪を切り揃え、節の張った太い指。セクシーでたまらない。
うっとりと浩志の指を見ているとふいに顎を掴まれる。藤くんの手だ。強制的に彼の方を向かされる。
「……お前さ、そういうことするからこいつに本気じゃないって思われるんだぞ」
口を開いたのは藤くんではなく、浩志だった。何故、そんなことを今言う必要があるのだろう。ちらりと浩志に目をやった藤くんはその視線を私に戻し、美しい双眸で私を捉える。
「ほんと、志保さんってイケナイ女ですね」
にこりと笑った可愛らしい顔立ちと不似合いな台詞。親指が顎をそっと撫で、離れていく。きっと彼はこんなことを繰り返しながら沢山の女の子を引っ掻けてきたに違いない。
潮時だ。まだ、彼は本気ではない。だが、これ以上かわし続けていれば彼の狩猟本能を燃え上がらせるだけだろう。そろそろ手を打つべきだ。
「……ちょっと」
「便所?」
「そういうこと聞かないの」
席を立ち、女子トイレへと滑り込む。用を足し、手を洗いながら大きな鏡をじっと見つめた。一週間を乗り越えた金曜日の疲れた顔。化粧なんて殆ど崩れてしまっている。
少しでもマシにしておこう。手早く化粧を直し、席へ戻る。