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サイレントエモーショナルサマー
第2章 6月某日金曜日

置いて行こうと言ったのに結局、藤くんは店までついてきた。

浩志とよく来る小さなイタリアンレストラン。白ワインに多種類の柑橘類を漬け込んだサングリアが絶品の私のお気に入りの場所。

4名席に案内され、私が座るとすかさず藤くんが隣に座ろうとしたのでなにかを察知した浩志がそれを阻んで腰を下ろす。面白くなさそうな顔をして向かいに座った藤くんの視線が突き刺さる。

「ほら、主役。好きなもん頼め」
「ありがと」
「中原さん、それ、俺が言いたかったんですけど」

受け取ったメニューはすっかり見慣れてしまった。浩志とは食べ物の好みが同じで、彼が美味しいと薦めてくれるものが外れたことはない。

「オリーブ食べたい」
「俺あんまり積極的に食ったことないんですよね。美味しいですか?」
「美味しいよ、食べてごらん」

オリーブに始まり、お気に入りの料理を幾つか注文した。アルコールの進む美味しい食事。うっかり飲み過ぎないように気を付けなければ。今日は浩志以外に藤くんが居る。途中でソフトドリンクを挟みながらサングリアを何杯か楽しむ。

次第に会話はゆったりと和やかな空気に包まれる。仕事の話も少しはした。それ以外はテレビの話や休日にどこへでかけたとか、今度新しくできたテーマパークはどうなんだろうとか本当に取り留めのない会話ばかりだった。
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