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サイレントエモーショナルサマー
第9章 その薔薇の色は、

◇◆

「あの中原さんの顔見てもなんとも思わないんですか?」
「君は自分の仕事どうしたんですか」
「折り返し待ちなんで大丈夫です」
「私は仕事中です」

昼は浩志と蕎麦を食べに行った。藤くんは私の一日の行動を見事に把握していて16時ごろに倉庫にこもって作業を始めると必ず姿を現すようになった。

作業を進めながらの微妙に噛み合わない会話。さわさわと生地の薄いガウチョパンツ越しに私の尻に触れ、顔を覗き込もうとしてくる。

「浩志は藤くんが自分の席に座ってたのが気に入らなかったんだって」
「そこで『都筑に触るな』って台詞は出てこないと思いますけど」
「まー、あれはなんていうか、今まで私が君の過剰なスキンシップに手を焼いていたからじゃないかな」
「……本気で言ってるんですか?それか、そうであって欲しい、とか」
「藤くんってなんでそんなに浩志が私のこと女として好きってことにしたいの?」
「いやいや、事実ですから。いい加減自覚してくださいよ」

めんどくさくなって口を噤むとすかさずキスをしてくる。こいつめ、と思うが毒の美味さを覚えさせられてはもうねだらずにいられない。

「もう1回?」
「…うん」

私の唇を食む熱のなんと甘美なことか。

「…今日、うち来てくれます?」
「なんか頻度あがってない?」
「平日は1回戦しか出来ないんで俺は毎日志保さんを家に連れ込みたいんです」

言われてみればそうだった気がしなくもない。記憶が曖昧なのは頭の中がどろどろに溶けている所為だろう。彼なりに私のライフスタイルを気遣ってくれているらしい。

月曜からは激しいな、と思うが藤くんに誘われると夜が待ち遠しくてたまらなくなる。ああ、でも、隼人のつけたキスマーク問題があるのだった。

「ね、来てくれますよね」

会社でのキスはいつも触れるだけだ。もっと激しく情動をかきたてるキスが欲しい。

「……明日の朝も起こしてね」

答えながらこれからは毎日着替えを持って出勤しようかとぼんやり思った。
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