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サイレントエモーショナルサマー
第11章 平穏か、あるいは、
ダーツをしてみたいと言っていた私をチカが連れ出してくれた。なんとなく笑ったりということを思い出し始めた頃で覚えたての酒を飲みながらした初めてのダーツは上手く的に刺さらなかった。
― 肘は動かさないで押し出すように手を動かすんだよ
晶はそのダーツバーで働いていた。背は私と同じくらいでバーテン服がよく似合っていた。柔らかそうな茶髪と色素の薄い瞳が印象的で、どきりとしたのだった。今、あの頃の自分の前にタイムスリップ出来るならば、そいつの見た目に騙されるなと言いに行くだろう。
とにかくあの頃の私は寂しかったのだ。
― かわいいね、大学生?また遊びに来てね、待ってるから
― いらっしゃい、待ってたよ
― もっと志保に会いたい、ね、連絡先教えてよ
寂しかった私にはふたつ年上の優しいお兄さんに見えた晶の言葉がするすると入り込んでいった。気づけば晶のシフトに合わせて店に通いつめ、気付けば彼とは映画を見に行ったり、買い物をしたり、食事をしたりするようになっていた。
― 志保はどうしてそんなに泣きそうな顔で笑うの?
飲みに行って、別れ際の言葉。
― 俺に話してよ、志保に笑顔になってほしいんだ
― 落ち着けるところに行こう。志保の家にしようか
確かそんなようなやり取りだった。私に笑顔になってほしいという言葉が嬉しくて街中でぽろぽろと泣いてしまったのだ。タクシーに乗って私の家に向かった。晶に抱き締められ、声をあげて泣きながら私を残して死んだ両親を責めた。
チカの前ではもう泣けなかったのだ。彼女を心配させたくなかった。もう大丈夫、寂しくないよ、と立ち直ったふりをしていたのだと思う。
― 俺が一緒に居るよ、志保、俺と付き合って
― 志保が好きだよ、いつか、家族になろう
思い出に残る場所で、と夢見ていた初めてのセックスは当時一人暮らしをしていた古びたアパートでとなった。