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サイレントエモーショナルサマー
第11章 平穏か、あるいは、
「…やっぱりくそ野郎だな」
過去を思い返しながら流していたぬるま湯を止め、洗っていたショーツをそのまま洗濯機へと放り込む。昨晩に引き続き、今度は寝起きに下着を洗っている姿は誰にも見られたくないな、と思う。
下腹部の痛みで目が覚めた時、時刻はまだ6時だった。
結局、6年ぶりの晶とのセックスは身体に教え込まれていた所為なのか、空白期間に私が弾けてしまった所為なのか、犯された屈辱もなく、いつものハンティングと大差はなかったのだ。ただ、6年ぶりの中出しの後処理が面倒だっただけのこと。
寝起きにしてはショーツが湿っているような感覚があり、やつの精液を出しきれていなかったのかと溜息がもれたが、溢れていたのは経血だった。
「あの頃よく妊娠しなかったな…」
ひょっとすると妊娠しづらい体質なのかもしれないが、最早なんだってよかった。子孫を残す気もないし、私はもう誰のことも愛さない。
欠伸交じりにキッチンへ向かい、電気ケトルに水を入れた。コーヒーが好きだと公言しているが、豆や淹れ方にそうこだわりはない。とにかく濃くて苦いのが好きだ。浩志はお前のコーヒーは濃くて飲めないと言う。
煙草を咥えながら申し訳程度に『の』の字を描くように湯を注いでいく。ぽたりぽたりと落ちていく粒を見ながら深く煙を吸い込む。
そう言えば、私に煙草を教えたのは晶だった。セックスの後、起き上がる気力もなくぐったりと伏せる私に彼は自分の指で挟んだ煙草を吸わせた。最初は上手く吸えずに咽ていたが、上手く吸えるようになると、いい子、と私の頭を撫でた。
「…辞めるかな、煙草」
ぽつりと呟きながらもふと思う。会社から離れた喫煙所で浩志と煙草を吸いながらどうでもいい話をできなくなるのは嫌だな、と。