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サイレントエモーショナルサマー
第11章 平穏か、あるいは、
◇◆
「都筑さん!今日の予定はどうですか?」
出社後、水曜定例の朝会を恙なく終え、デスクへと戻る道すがらミヤコちゃんの弾んだ声で足を止めた。
「…え、今日?」
「昨日総務の子とかに連絡したら今日来れるみたいなんで。会社の近くに出来たバルが気になるからそこどうですか?」
「あ、えーっと…予定は平気なんだけど…お店は違うとこがいいかな」
「わかりました!じゃ、どっか別のとこ探して押さえておきますね」
語尾にハートマークがついていそうな調子で言うとミヤコちゃんはるんるんと廊下を抜けていく。朝から元気だなぁ。私はもう既にお疲れモードだよ。
あれが若さか。諸先輩方に比べれば私もまだまだ若い方なのかもしれないが、確実に体力の衰えを感じる。2日連続の巨根はけっこーきついぜ、とアホなことを考えているとばしんと背中を叩かれた。
「いった…!なに?」
振り返ればファイルを手にした浩志が立っていた。
「口、開いてんぞ。間抜け」
「………ミヤコちゃんの若さを吸い込もうと思って」
「お前ってほんとバカだな」
「もういいよ、分かってる。最近言われ過ぎて慣れてきた」
自分でも思うようになってきていて、前ほどバカだと言われることへの抵抗は少なくなっている。バカだっていいじゃないか。仕事はちゃんとして、自分の食い扶持は自分で稼いでいる。あの頃、私の慎ましやかなバイト代で据え置きのゲーム機やらブランド物の服やら財布やらを買っていた晶に比べればマシだろう。
「都筑、今日の予定は?」
「女子会」
「……お前女子だったっけ」
「そのネタ昨日やったばっかだよ。女子だよ、カウントしてもらったもん」
「お情けか」
「うるさいな」
「飲みすぎて機嫌わりーときみたいな愚痴言うなよ。引かれるぞ」
「はいはい」
セーブせずに酒を飲むのはチカと浩志の前だけだ。外で飲むときは白ワインをよく飲むけれど、気を張る飲み会の時は弱いふりをして大しておいしくもないカシスオレンジを飲むようにしている。
「あ、昨日言ってたバル、明日行こうよ。さっきミヤコちゃんにそこにしよって言われたんだけど、浩志と行きたかったから他のとこがいいって言っといたし」
「………お前さ、」
「え、なに?嫌?」
「嫌じゃねえけど…なんつーか、」