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サイレントエモーショナルサマー
第2章 6月某日金曜日

302号室。よくある1Kのアパート。ドアが閉じるなり、靴を脱ぐ間もなく藤くんの手は私の顔を捉え、唇が私のそれに触れた。

ちゅ、ちゅ、と音を立てて啄むようなキスを繰り返し、薄く口を開くとすかさず舌が入り込んでくる。必死に藤くんの空いた手を掴む。

とろけそうになる情熱的なキス。身体が熱くなった。離れる唇が惜しくなって掴んだ手を強く引くと鼻で笑ってキスをくれる。

散々躱してきたのが惜しまれる。こんなに上手いならキスくらいは応じておけばよかった。

「シャワー、浴びましょっか」

ぺろりと私の唇を舐めて藤くんは言う。うん、と小さく答えやっと靴を脱いで彼の部屋に上がった。短い廊下を抜け、居室に入るとベッドに視線が吸い寄せられた。シンプルなチェックの白っぽい布団カバーとその下のマットレスにはワインレッドのシーツがかかっている。

「先、浴びます?それとも一緒に入ります?」
「ううん、藤くん先入って」

バスタオルを片手に、はーいと答えて藤くんの姿が廊下へと消えていく。良かったら使ってくれと渡されたクッションの上に腰を下ろした。

ベッドサイドの低い棚の上に煙草の箱が置いてある。私や浩志が吸っているのと同じ銘柄だ。なんとなしに手に取ってみるとそれは未開封だ。
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