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サイレントエモーショナルサマー
第11章 平穏か、あるいは、
舌をいれるのはダメだと言った癖に腰を抱いて髪や頬にちゅ、ちゅ、と口付けていく藤くんが恨めしい。
「私がミヤコちゃんと飲むの嫌なの?」
「…嫌ですね。あいつなんか余計なこと言いそうだし」
「…?余計なことって?」
「ん?俺、なんか言いました?」
「言ったよ、余計な…んっ」
私の声は藤くんが食べた。強く唇に吸い付かれ、たまらず彼のシャツを掴む。
「…勃っちゃうんじゃないの」
「頭の中で経を唱えてるんで大丈夫です」
「なにそれ」
それならばもっととろけるキスをくれとばかりに唇を寄せようとすると藤くんの身体がびくんと震えた。何事かと思えば尻ポケットからスマホを取り出して溜息をつく。ディスプレイには浩志の名前が浮かんでいる。
「……やべ」
「出ないとぶっ飛ばされるよ」
「…………はい、藤です」
『藤!てめえどこで油売ってんだ!早く戻ってこい!』
「はい、すぐ戻ります」
藤くんが私を抱き寄せながら通話に応じると機体から耳を劈かんばかりの大声が響く。おお、怒ってる。すみません、と言って通話を終え、深い溜息。
「……俺、最近中原さんに監視されてるんですよね」
「仕事サボってこんなとこ来てるからだよ」
「だって仕事中に志保さんをひとり占めできるのここだけですからね。給湯室じゃ落ち着かないし」
ほら、ドアないじゃないですか、と笑う。重要なのはそこなのか。
「早く戻りな。その綺麗な顔ぼこぼこにされたくないでしょ」
「志保さんが慰めてくれるならいっそそうなってもいいです」
「……ばか」
もう一度優しくキスをして、髪を撫でると倉庫から出ていった。とりあえず浩志が藤くんに手を上げることはありませんようにと念じながら残りの作業を片付けた。