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サイレントエモーショナルサマー
第13章 confusione
◇◆
私は夏が嫌いだ。うだるような暑さは立っているだけでも体力をむしり取っていくし、なにより夏は気分を重たくする。両親が亡くなったのも夏だった。恐らく、呆然と過ごした日々のおぼろげな記憶が私の気分を沈ませるのだろう。
夏の夜は自宅で眠ると嫌な夢を見る。梅雨明けが近くなるとどんなに疲れていようが眠ることが出来ない。だから可能な限り隼人の家や、ホテルで過ごしてきた。気ままに過ごす日曜にも予定を詰め込んで、一日で三人の男とセックスをしたこともある。流石にその時は体力的にしんどかった。
チカの家や浩志の家にも何度も泊めてもらった。チカが作ってくれる朝ごはんはとても美味しいのに食べきれなくていつも申し訳なくなる。
墓参りへ行く両親の命日だけは自宅で眠ることが出来る。寧ろ、その日は誰にも会いたくない。今の会社に入ってからはその日に合わせて夏季休暇を取得し、墓参りの日以外はとにかくセックスばかりして自宅ではないどこかで人肌を感じながら眠りにつく日々を過ごしてきた。
今年の夏はどう過ごすのだろう。藤くんは、一緒にいてくれるのか。
藤くんには話していないことがたくさんある。両親のことも、何故恋愛がしたくないのかということも、晶のことも、傷つけてしまった人のことも。それでも、彼は私のことを好きだと言う。彼は私のなにをそんなに好いているのだろう。
「……志保さん?」
「ん?」
「『ん?』じゃないですよ、トリップしてましたよ」
「ああ、ごめん、ごめん」
我に返ると藤くんが私の顔を覗き込んでいる。ごめん、と笑うとキスをして私の髪を撫でた。ちょっと甘酸っぱいキスだ。外の大雨を感じさせないあたたかな部屋。ソファーに並んで座って、テイクアウトのお弁当を食べていたのだった。
「なんの話してたっけ?」
「酢豚のパイナップルが許せるかどうかって話です」
言いながら彼は自分の食べている中華弁当の入れ物からパイナップルをのけていく。
「美味しいのに」
「ダメですよ、こいつは。俺は酢豚に果実の甘さは求めてません」
「でも酢豚食べるの?」
「酢豚は好きなんで」
藤くんがのけたパイナップルを食べると彼は綺麗な顔を歪ませて、まじかよ、と言いたげな顔を作る。雄弁な表情が可愛い。