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サイレントエモーショナルサマー
第13章 confusione

「晶と会ってさ、思ったんだよね。晶のなにがそんなに好きだったのかって。セックスは気持ち良かったよ。でも、今となってはもう別に晶じゃなくてもいいって言うか…ま、晶がまたヤるぞって言って来ればするね」

ライターを発見し、やっと煙草に火を点けた。咥えたままソファーに沈むとチカの手が膝がしらに触れる。

「もう、晶のことはなんとも思ってないの?」
「……分からない。なんで好きだったのかって思うけど、なんだろ…会ってから晶の気配がちらつく」
「また会ったらどうすんの?」
「言った通りだよ。ヤるぞって言われたらすると思う。でも、そんだけじゃないかな。ほら…前に言ったけど私のこれは病気みたいなもんだし。一応はコントロール出来てるつもりだからどうにかするつもりもない」

チカは以前、妻帯者に恋をして自分を酷く追い詰めていた頃があった。

その人の奥さんが、子供が憎くて堪らない。街中で見かけた時に目の前が真っ赤になった。どうかしてしまうかもしれない、危害を加えてしまうかもしれない、感情がコントロールできない、もう、私は病気だと食を尊ぶ彼女がまともに食事を取ることすら出来なくなった。

涙ながらにそれを私に告白するまで、チカは私に少し年上の彼が居るの、と幸せそうにしていた。まともな恋愛というやつをして来なかった私はチカが話す彼の話の違和感に気付いて、苦言を呈すことが出来なかった。

自宅で包丁を握りしめ、息も声も荒げたチカを抱き締めた時、私は悲しくて仕方がなかった。

チカが酷く追い詰められて傷ついてしまったことも、早くその闇に気づけなかったことも、なんと声をかけたらいいのか分からなかったことも、なにもかも悲しかった。
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