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サイレントエモーショナルサマー
第13章 confusione
その時、私もパニックだったのだと思う。必死に声をあげて、私は言った。私だって病気だよとかなんとか言って乱れた性生活を告白した。詳しくなんと言ったのかは覚えていない。
― 私たち、ほんとどうしようもないね
大粒の涙を流しながらそう言って、チカは包丁から手を離した。あの時、感じた安堵感はまだなにも超えていない。
相手の男とは私が変わって話し合いをした。チカにはもう会わないでくれ、と言う私をその男はホテルに連れ込もうとしたが、流石に股間に蹴りをくれてやった。
チカは私に気後れしたのか余所余所しい時期もあったけれど、私がそういうの寂しいよ、チカはなにがあっても私の大事な人だよ、今迄みたいにダメな私を叱ってよ、と言っていく内に段々と容赦のなさを取り戻していった。
「志保、私の病気は志保がどうにかしてくれた。志保のそれは私にはどうにも出来ない?」
「……まだレズビアンには目覚めてないんだなぁ」
「ちょっと、真面目に話してるんだけど」
「ごめん。でも、いいんだ。気持ちいいし」
「あんたの両親も草葉の陰で泣いてるよ」
「突き刺さるわ…」
からん、とグラスの中で氷が音を立てる。どうしたもんか、と言いたげにチカは溜息をつく。ごめんね、ともう一度言って短くなった煙草を灰皿に食わせてやる。
「ね、志保。今年の夏は藤くんと過ごしたら?」
何れ、梅雨が明ける。毎年この時期になると自宅に戻りたがらない私を案じてくれているのだと分かった。多分、それがあるから今日も電話一本寄越す前に、シャーベット片手に家に来てくれたのだろう。