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サイレントエモーショナルサマー
第14章 fantasma
「…お前、今日機嫌良くね?」
「分かる?」
「それ、山田のミスの尻拭いだろ。なのに顔がぶすくれてない」
「さすがだね、中原さん。よ、次期主任」
「おだててもなにも出ねえぞ。手伝ってやりてえけど、今から出るから」
「ちぇ。自力で頑張りますよ。いってらっしゃい」
浩志を送り出すとどこからか戻ってきた藤くんと入り口の辺りで鉢合わせている。お前真面目に仕事しろよ!と怒鳴る声がする。藤くんも殊勝な受け答えをしているらしい。くすりと笑って仕事再開。
1時間ほど無心で仕事に取り掛かった。一段落だ。肩を揉みながら回す。あとは倉庫内での作業が私を待っている。必要書類をまとめたバインダーを手に立ち上がった。
倉庫にこもって暫くするといつものノックの音が響く。こん、こここん。一応は私もちゃんと仕事をしなさいと咎めなければならない立場なのだが、その音を待ち遠しく思ってしまう。
「今日、忙しそうですね」
「昨日程じゃないよ。多分、19時過ぎには会社出られると思う」
そっと後ろから私を抱き締めながら耳元で問う声。ああ、ダメだ。今日はなんだか腰が抜けてしまいそうだ。
ちゅうっと耳の付け根を吸われ、ぞわぞわとなにかが這い上がってくる。
「ふ、藤くん…ちょっと、」
「ん?なんですか?」
「ばか…ちょっと、離れて」
「嫌です」
藤くんの身体を押し返そうとする腕を掴まれ、キスをされる。本日の藤くんも脳内で上手く経を唱えられているらしい。舌は下唇を舐め、口を開けてと私に要求しているみたいだった。薄く口を開けばぬるりと滑り込んでくる。
「だ、だめ…藤くん、」
「顔、赤いですね。かわいい」
「み、見ないでください…」
「じゃ、夜はもっと見せてくださいね」
なんだそれ。どきっとするじゃないか。たまらずバインダーで顔を隠すとくつくつと笑う声がする。くそう、手玉に取られている。今日はちゃんと明日の分の着替えも持ってきたんだよ、なんて言ったら藤くんを更に上機嫌にするだろう。それはなんだか悔しいので言わないことにする。