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サイレントエモーショナルサマー
第14章 fantasma

「夜もありますからね、この辺で戻ります。俺、多分定時で上がるんで志保さん電車乗ったら連絡くださいね」
「…うん。あ、あのさ、」
「はい?」
「も、もう1回だけ…」
「濡れちゃっても今はキス以外してあげられませんよ」

倉庫から出ていこうとしていた藤くんは途端ににやにや笑いになる。やっちまった。また喜ばせてしまったらしい。むっとして下唇を噛んで俯いた。そっと、藤くんの指先が頬に触れる。導かれるまま顔を上げると噛んでいた下唇を親指が撫でる。

触れる熱に対して抱いた感情に名前をつけたかった。これは、どういう感情なのだろう。触れて、離れて、また触れる。その度に、どうしてこんなに胸の奥から熱が込みあげてくるのだろう。

「……経の効果が切れそうです」

いつの間にか藤くんの頬が赤くなっている。ちゅ、と最後に私の目尻に口付けて顔を仰ぎながら出ていった。
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