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サイレントエモーショナルサマー
第14章 fantasma
◇◆

定時とほぼ同時にうきうきと会社を出ていった藤くんを見送って仕事を片付けた。予定より少し遅く、間もなく20時になろうかというところで会社を出る。

「よお」
「………」
「おい、無視すんなよ」

見えていない。別にセックスをするのは構わないが、今日は藤くんとがいいのだ。お前はもう亡霊でもなんでもない。ただのヤリチンくそ野郎だ。ふん、と鼻を鳴らし駅へと急ぐ私の腕を晶はまたも骨が折れそうになるほどの力で掴む。

「痛いんだけど」
「うるせえな。お前ちょっと付き合えよ」
「いや、無理。ほんと、今日は無理」
「ついて来ねえっつうならお前の会社のやつに昔のことぶちまけんぞ」
「……自分がくそ野郎だって告白するようなもんだと思うけど」
「てめえ、いつからそんな生意気言うようになったんだ」
「さあ?あなたが居なくなって私はある意味強かになったんです。やりたいなら別にいいから、今日は勘弁して」
「お前の都合なんかどうでもいい。俺は今日お前の中に突っ込みたい。それをお前が拒否する権利はない」

知るかよ。本当に勝手な男だな。はあ、と深い溜息を吐き出す。私は何故、こいつが居なくなってしまったら世界が終わってしまうなどと思っていたのだろう。初めて私に愛してると言った晶に夢を見ていただけなのだろうか。

「殴られたくなかったらついて来い」
「殴りたかったら殴れば?こんなとこでしたら捕まるの晶だよ。傷害罪、15年以下の懲役または50万円以下の罰金」

横暴なことを言っていた口がぽかんと開く。それもそうだ。あの頃は泣きながら殴られて、彼の性欲処理にひたすら使われていた人間がここまで言い返すようになっているとは思わなかったに違いない。1週間ほど前には彼に大人しく犯された訳で、その件も彼の驚きを増す要因になっただろう。

「…お前、ほんとに志保か?中身別人じゃねえか」
「そうだけど。痛いから手離して。私、今日ほんとに行くとこあるから。セックスをご希望であれば明日以降出直してください、さようなら」

晶の手を振り払って歩き出す。掴まれた手首が赤くなっていた。舌を打ってそこを擦ると、がしりと肩を掴まれ、後ろを振り向かされる。
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