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サイレントエモーショナルサマー
第15章 glicine
「いや、俺らはトキタでカツ丼食うから」
「がっつり派ですね、今度私もご一緒させてください」
「…ああ、」

会社を出たところで別れ、彼らは私たちと反対方向へと歩いていった。行くぞ、と促され歩き出しながらぷっと吹き出すと、浩志はじろりとこちらを見る。

「さっきさ、浩志、今日はカツ丼って言うなって思ったんだよね。そしたらほんとにカツ丼だった」
「ああ、まあ、最近食ってなかったし」
「こういうのよくあるんだよね。浩志がこう言うだろうなーって思うとほんとにそう言うの。なんだろうね」
「…俺も、お前の考えてること分かる時、ある」
「不思議だね、前世は双子だったのかな?」
「………そっちか」

定食屋トキタの戸に手をかけながら、ふっと笑う。部長はこの店のサバ味噌定食が好きらしいが、私たちはカツ丼以外を食べたことがなかった。混み合う店内で向かい合って、おばちゃんにカツ丼を注文しつつ、テーブルの端に逆さに置かれた湯飲みへと手を伸ばす。

「そういや、部長が都筑が未だに夏休み申告してこないって嘆いてたぞ」
「そうそう…なんか今年うっかりしてて。浩志は?いつ取るの?」
「盆の週に取って実家帰る。お前最近うち来ねえけど…今年はどうすんだ」
「あー、うん、ちょっと考え中」

冷えた麦茶を注いで浩志の方へ差し出す。

会社によって夏季休暇の取得方法は様々だ。今の会社は7月から9月にかけ社員たちの希望を尊重し、比較的に自由に取得させてくれる。本来ならば6月中に上長への申告を済ませるのだが、すっかり忘れていたのだった。
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