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サイレントエモーショナルサマー
第15章 glicine
「……ありがと?」
「おう。お前ほんと丼食うの下手だな。魚は綺麗に食うのに」
「丼持つの苦手なんだよね。手が足りないっていうか」
「ああ、身長の割に手小さいもんな」

土曜は何時に待ち合わせようかと話をしながら昼食を終え、トキタを出た。

会社に戻ってコーヒーを飲みつつ仕事を進める。そうだ、誰もなにもしないならそろそろグラスポットをこっそり買っておこう。あった方が便利だろう。

午前中に行っていた作業は思いの外、ミスがなかった。ほっと安堵の息を漏らし、いつも通り席を立つ。ノックの音を期待している自分を諌めて倉庫へと向かった。

「トキタって定食屋ですよね?」

いつものノックを響かせてから倉庫内に入ってきた藤くんは閉じたばかりのドアに寄りかかってぽつりと言う。

「そうだよ。でも、私らはいつもカツ丼だね」
「志保さんと中原さんってほぼ毎日昼一緒ですけどなに話してるんですか」
「んー?本の話とか?あとはまあ仕事の話とか、天気いいね、とかそんなもん」
「どんな本読むんですか?ファンタジー?SF?」
「ミステリーだね、私も浩志も警察小説が好きで。あ、明後日ね、前に面白かったって言ってたやつの映画観に行くんだ」
「明後日、土曜ですよ」

言いながらぎゅっと抱き着いてくる。お互い半袖の服なので素肌同士がぴたりと触れあった。
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