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サイレントエモーショナルサマー
第16章 falco pellegrino
「キス、したくないんですか?」
「………」

したくない、と言えば嘘になる。だから口を噤む。身じろいで藤くんの腕から逃れようとしても彼は腕に力を入れてそれを阻む。耳たぶを甘く噛まれ、声を漏らすと小さな声が、かわいい、と耳に吹き込まれた。

「勃っても知らないよ」
「今日からグノーシス文書なんで」
「……ん?」
「だから、激しいのしても平気ですよ」

私の身体を離し、少し距離を取る。したいなら自分からしてこい、という意味か。ずるい、本当にずるい。むーっと唸り声をあげ、藤くんに手を伸ばした。

手から離れたバインダーが床を叩く音。指先に藤くんのポロシャツの感触。反対の手は彼の頬へ伸ばす。指に吸い付くような柔らかな肌。伸びをして口付ける。薄いのに熱い唇。食んで、舐めて、舌を挿し込んだ。

「…はっ……」

がん、と背中が壁にぶつかった。藤くんの腕が檻のように私を閉じ込めている。

「…濡れちゃいました?」
「うるさい!」
「確認しちゃおっかなー」
「ちょ…!何考えてんの!怒るよ!」
「冗談ですって」
「もう!早く戻ってちゃんと仕事しなさい。ダメだよ、毎日毎日」
「今さらですか?大丈夫ですよ、毎日って言ったって5分とかそんなもんじゃないですか。煙草吸ってる人は1時間ごとに出てく人もいるのに俺のこれはダメなんてずるいです」

実に痛いところを突いてくる。私は会社では煙草を吸わないようにしているが、出来るものならそれくらいはしたい。ぐぬぬ、と唸るとまた唇が触れた。おい、自分、流されてどうする。
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