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サイレントエモーショナルサマー
第17章 ricordo
「あ、そうだ。ね、浩志がやった時、暑気払いの料理どこで頼んだ?」
「6年も前のこと覚えてねえよ…。お前まだなんもやってねえの?来週の金曜だろ」
「飲み物とかお菓子とかは金曜に調達する時間取ってくれてるし…オードブルプレートもミランジェのなら水曜までに頼めばいいかなーと思って。あ、部長が好きなカツサンドってどこのか知ってる?」

会社近くのパーティー料理の受注配達を請け負っている店の名前を口にしながら私も煙草に火を点けた。2日前までの注文であれば会社まで届けてくれるという有難い店で、洒落たオードブルのプレートは見た目もさることながら味も良いのでとりあえずミランジェに頼んでおけば外れない。

「ああ、あのカツサンドは会社から15分くらい歩いたとこのパン屋の」
「お、流石。助かった。よし、暑気払いばっちり」
「お前ひとりで買い出し行くのか?何往復するつもりだよ」
「部長がね、藤くん使っていいって。細かいのは週明けの仕事終わりにちょっとずつどうにかしていこうかと」

打ち合わせをしよう、と藤くんは言っていたけれど10人強の部員たちで行う飲み会でそこまでする必要はないだろう。頭の中でビールとジュースはどこそこで買って、と考えながら短くなった煙草を灰皿に押し付ける。

暫く喫茶店で話をしてから映画館に移動した。ポップコーンは変わり種がいいな、チーズパウダーかな、などと思っていたら浩志は迷いなくそれを注文したのでやっぱり不思議だなと思わず笑った。

結論から言うと映画はまぁまぁの仕上がりだった。実写映画化なんてものは大抵こんなもんだ。原作を読んでいる時に僅かな情報から思い浮かべた人物像が女優、俳優と合っていなければその違和感が物語を台無しにする。

その点から見ると浩志が言っていた通りキャストは悪くはなかったが、私たちが本を読んだ時の解釈と監督や脚本家の解釈に齟齬があったようで、ちょー面白かったね!と言えそうにはなかった。

「やっぱりさ、通り魔のあの表情なんか違くない?ラストの方」
「なんつーか、まあ、読んだ時はもっと悲しい感じの表現だったよな」
「そうそう。それがさ、こうにっこり微笑まれちゃうとさ…あれれ?ってなるよね」
「ああ、なる。なった」
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